医学的な公式資料の見解
学術的な資料をピックアップしてみます。
- 上肢多汗症手術の管理-レビュー(2012年) → 4.2.1.1.外科的アプローチと技法 より
場所 介入レベル 顔 T2 手のひら T2 / T3 腋窩 T3 / T4 足底 "/T4 (廃止)
L2 / L3 (今日は内視鏡腰部腹腔外交感神経切除による) - ETS手術のリスク → Lin-Telaranta 分類 より
手汗(HH)では、T4レベルのみを治療します。
顔汗(FS or CH)では、T3レベルのみを治療する必要があります。
赤面症(FB)では、T2レベルを治療する必要があります。
社会不安(SP)では、より詳細な検査に応じますが、左側T2からT4の治療で十分であり、場合によっては両側の手術をしなければなりません。
※この資料はちょっと古いです。
- ETS手術:手術をどのレベルで行うべきでしょうか?(2008年) より
彼らは顔面多汗症のためのT2神経節、手掌多汗症のT3神経節、および腋窩多汗症のT3とT4の神経節の介入を推奨しています。
- 多汗症のための胸部交感神経切除術:外科的適応から臨床結果まで(2017年) より
STSのコンセンサスは、孤立したR3の中断または代替的にR2-R3の中断の組み合わせを提示しています。後者はより効果的ですが、代償性発汗の高いリスクに関連します。私たちの選択肢は、孤立した軽度の顔面発汗がある場合はクリップ付きのR3ブロックであり、患者がリスクを受け入れて戦略に同意する場合は、顔面紅潮のためのクリップを備えたR2-R3ブロックです。
T2は代償性発汗が特に激しく出ることが分かっており、今では決して切除してはいけないと考えられています。
その上で見てみると、一部の資料ではT4を切除することを推奨しているものもありますが、他のほとんどの資料はT3のみ切除を推奨しており、近年の研究ではT3のみの切除と考えるのが良いようです。
※注意※
T3のみの切除でも代償性発汗や気力が落ちるなどの副作用を持ちリバーサルを受けた人もたくさん知っています。繰り返しますが、ETS手術を勧めているわけではないです。私が言いたいのは手汗を減らすためのETS切除部位は世界的な研究ではT3のみの切除と考えられているようだということだけです。
ETS手術を行っている医院の切除部位
ホームページで切除部位を公開しているものをピックアップしてみます。
- 石切生喜病院(大阪)
通常、第3、第4肋骨前面の交感神経幹を切除します - NTT東日本関東病院(東京)
手のひらの多汗症の治療では、これを第二または第三肋骨の高さで遮断、またはクリップしなくてはなりません。 - おだクリニック(福岡)
当院の手術は第4交感神経のみを遮断します。
- 金沢医科大学病院(石川県)
第3の胸部交感神経節を胸腔鏡に装着した装置により電気で焼きます。
- 慶應義塾大学病院(東京)
通常、この手術では、第2、第3肋骨上の交感神経節を電気メスで切除します
- 坂出市立病院(香川県)
当科ではT4を切断することで、T2やT3の切断に比べ多少の発汗は残るものの、代償性発汗も軽減できる手術を行っています。
- 静岡赤十字病院(静岡)
手掌多汗症では第3と第4交感神経節を切断しています。
- 山本クリニック(東京)
通常、交感神経幹が肋骨の三、四、五本目と交差する部分(T3・4・5)の遮断を行います。
- 四谷メディカルキューブ(東京)
患者様からのご要望がなければ、両側の交感神経(T3、T4) を一度の手術で遮断しております。
※注意※
ETS手術をしている病院は他にもたくさんあります。あくまで切除部位を公開しているサイトのみ扱ってます。その上で、でしかないですが、T3のみ切除をしている病院はほとんど見つからなかったということです。
共通認識のない無法地帯
私が言いたいのはここなのです。
どの病院も自分のやり方が正しいと自信をもってアピールしているんだと思いますが、共通認識が全く無いのです。
そして、世界的に標準となっている(であろう)T3のみの切除をしている病院も、Webで探した限り1件しか見つかりませんでした。
言えることは、この手術は十分に解明されていない、つまり、よく分かっていない手術だということです。
結論
そもそも私はETS手術に反対です。せめて手首あたりで交感神経を弱めることができるならまだわかりますが、胸の中の交感神経幹を切ってしまうのはあまりにももったいないと考えているからです。
その上で、ETS手術ではどこを切るかというのは明確に決められておらず、切る場所は医師独自の見解に左右されています。医師は患者の獲得を目的としていて、最小限の影響とはかけ離れていると考えてもいいようです。
こういったアプローチから見ても、後遺症がきちんと管理されていないのもよく分かります。なぜなら医師は自身のやり方が一番優れていると考え競争しているからです。
年々ひどくなる代償性発汗、のぼせる頭、気力の喪失、冷たい手、疲れやすさ、重たい頭、食欲の減衰、頻尿などなど、また片側遮断をすれば半分だけ過剰に汗をかくことがどれだけ苦痛か、そういったたくさんの副作用があるのにも関わらず、それを医師は認めなかったり過小評価するのもうなずけます。満足度は実際に比べてかなり高い数値がアピールされてると思ってます。
ちょっとタイトルと結論がそれちゃいました。
でも、これが、ETS手術の現状だと思っています。
では。
まるとん
追記①:
補足です。
※おだクリニックについては コチラ を参照。
※山本クリニックについては コチラ を参照。
※四谷メディカルキューブについては コチラ を参照。
追記②:
Lin-Telaranta 分類で「手汗のためにT4のみを治療すること」が不適切だったことは以下の記事に詳しい説明があります。
T3 Sympathectomy (ETS) - T3 Blockade (ESB)
Around the millennium shift, Prof. Lin (Taipeh) discovered that a T4 approach had the same success rate on palmar hyperhidrosis as T2 surgery, but did produce almost no compensatory sweating. When we however tried to reproduce his method, it did not deliver the same results. We found out that eliminating the T4 ganglion did have some effect, but in many cases not a sufficient one, and sometimes the outcome was assymmetrical. Further investigations showed that the reason for this discrepancy was the fact, that blocking the sympathetic chain at the level of the 4th rib (applying clips above and below), in reality did in most cases squeeze the T3 ganglion, but left the T4 ganglion unharmed.
説明はこうです。
・Lin の手法を誰も再現することができなかった。それどころか結果は不十分で非対称になることもあった。
・彼の手法は T4 の上下をクリップで留めるというものだったが、実際にはT3神経節を圧迫するもので、T4神経節は無傷のままでああることが示された。
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